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すいーと・すいーと

黎が管理・運営しているきまぐれブログです。 初めてお越しの方は、カテゴリー「about」内の「はじめに」という記事をご覧ください。 女性向け要素、同人要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。

2024.11.22
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2009.05.10
さて、本日は5月10日、日曜日。
GWにかこつけて(?)始めた捏造キャラ強化週間も、
本日が最後でございます! 
思ったより早かった…

さて、本日は、昨日宣言しましたとおり、
半兵衛の奥さんメインのお話をアップします。
以前、雨宮から
「つきさんの前だと半兵衛がヘタレだ」
と言われた、まさにそれでございます(笑)
つき視点の話でございます。

別に、ヘタレさせたつもりはないのですが、
結果的にはまぁ……確かにそうなってる、か、な…(苦笑)
たまに半つきを書くと、むしろ半兵衛は
ナチュラルにタラシになっちゃって、それはそれで面白い。


明日からは、元通り戦BAとFFをうろうろします。
そして明日は、ありがたくもリクエストを
いただけたものをアップいたします! 
今日もこれを書き終えたら、予約更新の準備します(笑)


それでは、趣味に走りまくりな半兵衛と奥さんの話、
お読みくださる方は続きへとお進みくださいませ! 
このような自己満足企画にお付き合いいただき、
本当にありがとうございました!! 







其の光は唯々静かに                      


  穏やかな風の吹く、暖かい日だった。さんさんと降り注ぐ陽の光が心地よい。もし叶うのなら、一度で良いから、こんな日にこそ愛する人と、ふたり寄り添って歩いてみたい。そんなことを思ってしまうような陽気だった。
  無論そう思うということは、彼女にとって、その夢が叶わないであろうことを示している。果たして彼女は、怯えているかのような控え目な仕種で、夫のいる部屋の襖をそっと開けた。仕事にいそしむ夫の背中は、振り向かない。もはやいつものことだった。
「殿、失礼致します」
  控え目に声を掛けるも、応じる声もなかった。集中している時の彼の態度だ。聞いてはいるが、反応は寄越さない。
「お食事をお持ちしました。お召し上がりくださいませ」
「ああ」
  短い返事が返ってくる。素っ気ない声には、なんの感情も感じられなかった。彼女は思わず、胸の奥深くで、寂しい溜め息を漏らしてしまう。恐らく食べてはくれないだろう。朝食も食べてくれていない。よほど急ぎの仕事なのか、夫は朝からずっと部屋に籠ったままで、誰とも言葉を交わしていなかった。
「…殿、あの……」
「なんだい」
  先ほどと同じ声。耳を傾けているが、応じる気のない声だ。結局彼女は、言おうと思った言葉を引っ込めてしまう。
「いえ、……お体を、どうぞお大事にしてくださいますよう……」
「ああ」
「失礼致しました」
  夫の返事も待たず、部屋を出る。襖を閉め、音をたてないように廊下を歩いた。角を曲がるときに思わず振り返ったが、誰もいる筈がなかった。
  なんと情けないことだろう、と、彼女は哀しくてならなかった。妻となるなら、夫を心身共に支えて生きたいと、彼女はずっと思ってきた。だが実態はどうだ。夫が寝食もおろそかに仕事にいそしんでいる時に、自分には何もできることがない。声を掛けたところで、応えてもらうことすらできない。
  彼女の夫は、暫く前から、豊臣秀吉なる男に仕えるようになっていた。名を竹中半兵衛という。もともと穏やかな性分の人だったが、ある時いきなり当時の主に反旗を翻し、城を乗っ取ってしまったことがあった。その城は難攻不落と名高い城だったにもかかわらず、半兵衛は僅か17人で謀反に成功してしまった。以来彼は天才軍師と噂されるようになり、魔王・織田信長からも配下となるよう誘われたことがある。結局彼は魔王の誘いを蹴ってしまったが、転機は間もなく訪れた。直々に彼を口説きに来た豊臣秀吉の誘いに、半兵衛はあっさりと応じたのである。豊臣秀吉と出会ってからは、穏やかだった夫は消え、すっかり別人のようになってしまった。家督を弟に譲ると、妻も家族も全てを彼の持ち城に置き去りにして主と共に行き、この菩提山城に帰ってくることは殆どなくなってしまったのだ。
 否、もとから、そんなに穏やかな性分ではなかったのだと、彼女は本当は気付いていた。ただ彼は、胸の奥底にしまいこんだ気持ちを吐き出すことができなかっただけだったのだろう。穏やかな瞳の奥に、悲しみ、憂い、怒り、憤り…といったものが時折覗くことを、彼女は早くから知っていた。思えば、魔王の誘いをそっけなく蹴ったときにも、彼は妻にぽそりと洩らしたことがあった。魔王がこの国を蹂躙するようになれば、この国は終わりだ、と。静かで穏やかな瞳は、遠く広い世界を見ているのだと、彼女は本当は知っていたのだ。だからこそ、豊臣秀吉がどのような男なのか、彼女にはなんとなく想像がついた。この国を滅びから救うだけの器と信念を持った男であり、半兵衛にとっては己の全てを捧げるに値する存在なのだと。そして、久しぶりにこの菩提山城に帰ってきたのに夫がしていることといえば、寝食をおろそかにしての激務だ。豊臣秀吉に出会う以前の夫からは、想像もつかない姿であった。
(お体を病んでおいでなのに、まともな食事もなさらず、ひたすらお部屋にこもられて……)
 夫の体を思えば、あのような無茶はして欲しくないというのが本音である。夫は病を得てから長い。完全に治ることはないだろう、と言ったのは、他ならぬ夫であった。しかも夫は、主である豊臣秀吉には、病持ちであることを伝えていないという。事情を知らなければ、半兵衛が無茶をしてもきっと止めないだろう。安静にしていればともかく、体を酷使する日々が続けば病の進行が早くなることなど、わかりきったことだった。……にもかかわらず、夫の病を唯一知らされている自分には、休んで欲しいと伝えることすらできないのだ。本当に、自分は、なんと無力なのだろう。
 小さくさみしい溜め息を洩らし、彼女はゆっくりとした足取りでその場を立ち去った。


               *          *          *


 その晩、彼女は再び夫の部屋まで夕餉を運んでいった。とうに昼餉は片付けてあったが、案の定、それはまったくの手付かず状態で、彼女はいくつめかの溜め息を既に済ませている。
「殿、失礼致します」
 朝昼と同じように言って襖を開けると、朝昼と同じように、仕事にいそしむ夫の背中がそこにあった。
「夕餉をお持ちいたしました。どうぞお召し上がりくださいませ」
 この言葉も繰り返されたものだった。だが今度は、違う反応が返ってくる。
「片付けておいてくれ」
「……!」
 そっけない声に、思わず体が固くなった。夫は気付いたのかどうか、もうひと言そっけない言葉を添える。
「いずれにせよ食べられない」
「殿……」
「頼んだよ」
 振り向きもしない夫の背中。彼女は悲しくなってきた。上背はあるが、痩せた夫の背中。以前会ったときよりも、少しやつれた顔をして帰ってきた夫。病を抱えた体に鞭を振るい、自ら死期を早めている夫。夫はようやく生きがいを見つけたのだと、夫が望んでそうしているのだと、彼女は今まで自分に言い聞かせてきた。だが、それでも、こんな悲しいことがあるだろうか。食事を取らなければ、人は死ぬ。病を抱えていなくても、寝食をおろそかにしていれば、頑強な者であっても体を壊してしまう。
 今にも涙がこぼれてしまいそうだった。
 彼女は長い間、そこから動けなかった。それでも夫は、彼女になんの注意も払わない。そういう人だ。夫婦となったのはひとつの縁でしかない、夫にとっての自分はそういう妻でしかない。わかっている。病を自分にだけ告げてくれたのも、自分がたまたま彼の妻という立場にあったからだ。それ以上の関心を、彼は彼女に対して払っていない。
 だが、彼女にとっての彼は、そういう夫ではなかった。
「……殿」
 意を決して、彼女は夫の背中に声をかけた。
「殿、どうかお聞きくださいませ」
「なんだい」
 そっけない声ではあったが、夫は一応応じてくれた。
「どうか、お食事を、お召し上がりくださいませ」
「食べられないと言った」
「存じております。なれど、どうかお食事を。お願いでございまする」
「食べられない」
「何故にございますか?」
 彼女が声を震わせないよう気を張ってそう言うと、小さく長いため息が聞こえた。夫はようやく筆を置くと、半身振り返って彼女を見る。穏やかだが、困ったような表情をしていた。
「忙しい。…見ればわかるだろう」
「お体に障りまする。どうか、少しでもよろしゅうございます、お召し上がりくださいませ。朝から何も口にされていないと存じ上げますれば」
「ここでしかできない急ぎの仕事がたまっているんだよ。今夜中に終わらせたいんだ」
「なればこそ、少しでもお召し上がりくださいませ。お倒れになってしまわれれば、片付く仕事も片付かなくなるかと存じまする」
「こんな無茶は今日だけだ。一日くらいならばもつよ」
「なれど!」
「頼む、今日は引いてくれ」
「いいえ、引きませぬ!」
「…頼むよ」
 互いに譲らず、次第に夫の表情に不快なものが混ざり始めたと感じた、そのとき。
 ぐぅぅぅ……
「…………」
「…………」
 低い音が鳴った。
「……………………」
「……殿……?」
 呆気にとられた彼女が呟くと、夫はばつが悪そうに顔をそらした。
「あの……、今の……」
「…聞かなかったことにしてくれないか」
 初めて聞くような情けない声で、夫がぼそりと呟く。どうやら、飢えていたには違いないらしい。否、その感覚すら失われていたのでは問題があるのだが。
「……片付けてくれ、と言ったことについては、撤回する。だから、君も引いてくれ」
「なれど……」
「後で食べるよ。……まあ、その、飢えていないと言えば、さすがに嘘になるからね」
 相当恥ずかしかったに違いない、夫の白い頬が赤くなっていた。思わず可愛いなどと思ってしまったが、彼女の口は違う言葉を紡ぐ。
「先ほど、食べられないと仰せに……」
「今はまだ食べられないよ、先に仕事を片付けたいからね。でも、後で必ず食べる。約束しよう」
「なれど、飢えておられるのではないのですか」
「……仕方がない、自業自得だ」
 いまだ困ったような顔をしたまま、夫は体の向きを直した。行きたまえ、と言われたが、このまま去るのはどうも気がとがめる。
「…殿、わたくしがお手伝いを」
 少しだけ夫のほうに近づくと、彼女は控えめに囁いた。
「そうしてもらえるとありがたいが、君に手伝ってもらえることはないよ」
「ひとつだけ、お手伝いできることがございますれば」
「……? なんだい」
 再び持ち上げた筆を動かす前に、彼は彼女の方を振り向く。既に不快な色のなくなった夫の穏やかな瞳を見つめながら、彼女は再び囁いた。
「お食事のお手伝いをさせてくださいませ。さすれば、筆をお持ちになったまま、お召し上がりになれましょう」
「え…」
「わたくしが、殿のお口に、お食事をお運び致しまする」
 夫の目が点になった。無理もない、彼女の方からこんなことを言い出したことは、今までただの一度もなかったのだから。反応に困っているのは明らかだった。
 やがて夫は、溜め息をつくかのように呟いた。
「君も、突飛な発想をする人だね」
「さようでございますか」
「ああ。正直驚いているよ。…だが、せっかくだから、頼むとしよう」
 夫の唇にうっすらと微笑が浮かんだのに気付き、彼女の胸が小さく高鳴る。久しぶりに、彼女のよく知っている夫の表情になった。穏やかで優しい表情だ。女性的な面立ちの夫には、こういう表情のほうが似合っている。
「……では、失礼をば」
 胸の奥がじんわりと温かくなり、彼女はそっと夫に近づいた。箸を取り上げ、よく煮た芋を運ぶと、夫はそれを口に入れる。よく噛みながら筆を持ち直し、そのまま文か何かに向きあい直すのかと思ったら、彼はそのまま飲み下し、もう一度彼女のほうを振り向いた。
「あまり、僕を甘やかしてはいけないよ」
「え?」
「図に乗って、君にもっと苦労をかけるようになるかもしれない」
「まあ……」
 夫の唇には、いまだあの穏やかな微笑が浮かんでいる。夫の意外な言葉は、むしろ彼女を喜ばせるものだった。彼女は思わず頬をほころばせ、夫にこう言葉を返す。
「いいえ、わたくしにできることなど、たかが知れておりますれば。どうぞ、お手伝いをさせてくださいませ」
「そうかい。…ありがとう」
 本音はどうあれ、そう口にしてくれる夫の心遣いが、彼女には何より嬉しかった。
 静かな月の光が、優しく穏やかに夫の姿を浮かび上がらせているのを、彼女はじっと見つめ続けた。


                                              幕

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戦BAの半兵衛と、FF7のザックラにぞっこんフィーバー中。

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